公益社団法人 日本伝熱学会 / The Heat Transfer Society of Japan

将来検討委員会からの答申

将来検討委員会からの答申を受けて

第50期会長 笠木 伸英

日本伝熱学会は,昨年11月に創立50周年を迎え,また本年4月1日には公益社団法人として改めて認可されました.こうした学会の節目に,将来検討委員会の設置を理事会で承認いただき,21世紀における次の50年に向けての本学会の将来構想について諮問致しました.特に,歴史と伝統を有する本学会の新しい時代における使命は何か,そしてわが国が直面するさまざまな困難,すなわち,大震災,エネルギー問題,産業空洞化,少子高齢化,経済危機などの軽減克服にどのように貢献していくかについて,会員が共有できる理念と方法を見出すことを依頼しました.これに対し,去る平成24年4月21日開催の第50期第4回理事会にて,将来検討委員会 宇高義郎委員長より下記の答申を受け,理事会として受領いたしました.答申には,将来に向けて本会が意義ある活動を通じてさらに発展していくための貴重な提案が盛られています.会員諸兄にご報告すると共に,ご意見やご要望もいただきたいと考えております.また,次期会長には答申内容の実現に向けて取り組んでいただくよう申し送りたいと存じます.
この場を借りて,委員長,各委員の皆様の献身的な検討に心より敬意を表すると共に,厚く御礼申し上げる次第です.

平成24年4月21日
日本伝熱学会将来検討委員会

日本伝熱学会将来検討に関する答申

答申の骨子

本学会の創立50周年と新公益法人化を機に,最近の学術界内外の変化に対応した新たな展開を目的として,笠木伸英第50期会長より本学会の将来構想について諮問され,以下の課題について検討を行った.
[検討課題] (1) 本学会の現状分析,(2) 学術的な守備範囲・活動内容の方向性;新規研究領域開拓や大型プロジェクトの立案,他分野との連携,(3) 社会からの要請の強い現代的課題,(4) 国際的な関係整理と今後の国際的活動の発展,(5) 学会名称.
[現状分析] 本学会では機械工学以外を専門とする会員数が減少し,日本機械学会熱工学部門との違いが明確ではなくなりつつある.研究内容は,他分野との境界領域に広がり,現象を取扱うスケールもミクロ・ナノスケールにまで及んでいる.一方,この約10年間の我が国の自然科学分野のジャーナルにおけるドキュメントシェアの大幅な低下と質の伸び悩みが指摘されており,世界の科学技術の中で日本の存在感が薄れる傾向が懸念される.伝熱分野においても顕著なドキュメントシェア低下が見られる.また,エネルギー技術の根幹を占めるなど,熱に関わる研究コミュニティーの役割の社会的重要性は高いが,国内的にも国際的にもその位置付けは充分とはいえない.したがって,現在の社会的要請を考慮しながら,設立当初の趣旨に立ち返って分野横断的な熱分野の研究者集団を目指すとともに,我が国の伝熱工学の将来と本学会の国際展開の観点から,その集団が機能する学会のあり方を明らかにし,その実現に向けて具体的な対策を講じる必要がある.
[提言1:特定推進研究企画委員会の設置] 検討課題 (2), (3)項に対応して,新たな学会活動を指向するための特定推進研究企画委員会の設置を提案する.委員会においては,大局的な学術の振興の中に本学会の分野を位置付け,より学際的な研究アクティビティを確保し,社会の期待に応えるための社会的課題と科学技術課題,あるいは我が国の今後の成長分野に特化した個別先鋭的な研究課題を,客観的な根拠に基づいて設定する.そして,それらを学会として取り組む主要課題と位置付けて学会員の研究課題設定に供すると共に,公的なファンディング機関などによる研究開発方策・大型研究プロジェクトの立案や推進に対して助言してゆくことを目標とする.
[提言2:アジア地区委員会の設置] 熱研究コミュニティーの国際的な地位向上を図り,また発展しつつあるアジア地区の熱分野コミュニティーを本学会が主導する形で組織化し,国際的課題の解決を目的とする委員会の設置を提案する.我が国の熱分野コミュニティー内での連携および国際的なコミュニティーとの協力体制を進める.
[学会名称の検討] 本委員会での多角的な視点からの検討の結果,現在の学会名称を俄に変更すべきとする合意には至らなかった.しかし,将来にわたる伝熱学分野の深化と拡張,境界領域の進展,関連学協会との連携,さらに学会の活動に対する社会的な期待の変化などを考慮すると,今後とも学会名称の変更に関わる本質的議論を継続し,名称変更を行う柔軟性とダイナミズムを担保すべきである.